アスレチックス戦で今季10勝目を挙げたエンゼルスの大谷翔平
=8月9日、オークランド(共同)
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自分の可能性を閉ざすことなく、挑戦し続けることの大切さを、その背中は教えてくれる。
次代を担う子供たちにとって、実に心強い道しるべだろう。
投打の「二刀流」で活躍する米大リーグ・エンゼルスの大谷翔平が、投手として今季10勝目を挙げ、「2桁勝利、2桁本塁打」を成し遂げた。
1918年に13勝、11本塁打を記録したベーブ・ルース以来、104年ぶりの快挙だ。ルースが活躍したころと異なり、今は投打の分業制が確立した時代だけに、その価値は高い。
しかも、記録を達成した9日の試合では、左足に打球を受けながらも痛みに耐えて続投し、6回無失点の好投を見せた。七回の打席では自ら25号ソロ本塁打を放ち、一人で試合を動かした。
野球少年の夢を体現したプレーは見ていて飽きることがなく、浮き立つような興奮と楽しさを覚える。米メディアが、大谷をバットマンなどと並ぶヒーローと称(たた)えるのもうなずける。
4月の今シーズン開幕時には、米誌『TIME』の表紙モデルに起用されるなど注目度は高い。
大谷は同誌のインタビューに、「そういう人たち(二刀流)が増えれば、自分の数字にも理解が深まると思う」と語っていた。
ルースが投打で活躍したのは1918、19年の2シーズンで、通算714本塁打を残した強打者の印象の方が強い。これからは、大谷の残す数字が「二刀流」の指標として後世から評価を受けることになる。
今季のエンゼルスは5月から6月にかけて14連敗を喫するなど振るわない。チームには複数の球団から大谷のトレードを求める申し出もあったと報じられた。今後は周囲が騒がしくなる中で、自分との闘いにもなるに違いない。
大谷は試合後、「(二刀流が)当たり前になってくれば、もしかしたら普通の数字かもしれない」と語った。現役でいるかぎり、プレーに妥協はしない、挑戦に終わりはない、という決意の表れと受け止めたい。
大谷は、来年3月に開かれるワールド・ベースボール・クラシック(WBC)出場にも意欲を示している。
日の丸を背負ってくれるなら、日本の野球少年にとってこれほど胸の躍る話はないだろう。
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2022年8月11日付産経新聞【主張】を転載しています